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第二章 

12話)遊園地の中



 目的地に辿りついた後は、二人で長蛇の列に挑んで並んだ。
 優斗が自分で言った通り、ジェットコースター系が本当にダメだったのだ。
 それを実感できた・・・さすがに真っ青な顔で乗り込んで、動いている最中などは、歯をくいしばって耐える彼の顔を見た・・後は、これ以上、乗ろうなんて言えない。
 けれども、彼は芽生がそういった乗り物系に、乗りたいと思っていると思いこんでいる。
 また違う絶叫系のアトラクションに、並ぼうとするので、
「今日は体調悪いみたい。私もさっき気分悪くなっちゃったから・・。」
 と、嘘をついて、激しい乗り物はナシにしてもらったのだった。
 その後、彼と小さな子供が乗るようなコーヒーカップには乗った。
 お化け屋敷にも入って、キャーキャア行って出てきた。
 大道芸人が出るステージを鑑賞して、
「おぉー!」
 なんて感嘆の声をあげて、彼は目を見開き、彼等の一芸一芸に感動するのである。芽生は、大道芸よりもキラキラ輝く優斗の瞳に、つい魅入られてしまった。
 弁当も、大成功だった。実は、芽生が手にしていた紙袋が何だか、気になっていたらしい。
「弁当だったら嬉しいなあ。なんて思っていたんだ。」
 と、素直に喜ぶコメントを聞けて、芽生は、今日弁当を持ってきてよかったと思ったのだった。
 二人でベンチに座って弁当を広げ、箸でつつく。
 食事中は、何もしゃべらず黙々とあっという間に平らげる優斗は、翔太と同じだ。
「ごちそう様。おいしかったよ。」
 と言った後も、まだ物足りない顔をしている優斗の顔は、幼く見える。むしろ可愛いくらいに思えた程。
 彼と一緒に過ごして思った事は一つ。
 意外にも彼は、感情が豊かなのだと言う事。
 素直な感情の動きを感じとることができて、たちの悪い人ではないと思った。
 楽しい時は目一杯喜びの声を上げ、怒りに燃えた時は、激しく爆発する。・・・例えば一昨日の保健室の出来事のように。
 そうかと思えば、そんな感情を見事に抑え込んだ顔を、一瞬でできた。
 早業のような瞬間を何度も見せられて、まるで人間ジェットコースターに味わった気分になるのだった。
 極めつけは、二人で入った観覧車だった。
 夕方の西日が、下界のすべてを照らし、とても綺麗に染まっていた。
「きれい・・。」
 思わずつぶやいた芽生に、優斗は
「どこ?」
 と聞いてくる。そして、さりげなく芽生の隣に座った彼は、芽生と同じ目線で景色を見ようとしたらしく、顔を近づけてくる。
「・・下の景色。きれいに染まってる・・。」
 芽生がつぶやくと、
「ホントだね。」
 と、小さく答えてきた。囁く声色が、少しいつもと違うものを感じて、振り返ると、真摯な優斗の瞳とぶち当たる。
 妖しげなんてものじゃなかった。惹きこまれるくらいに強い瞳には、芽生にだってわかるくらいの“ある物”が浮かんでいた。
 視線に捕えられてしまって動けない芽生に、優斗はさらにゆっくりとした、しぐさで近付いてくる。そしてソッと唇を合わせてきた。
 始めは触れるくらいの優しいもので・・次第に激しいものになってくる。
 保健室でした口づけとは少し違う。とても柔らかなのに、力強い。
「ん。っ・・。」
 小さな声をあげると、彼は芽生の背中に手をやって、ギュウと抱きしめてきた。
 芽生も夢中で優斗に抱きついてしまう。
 早鐘が鳴るほどに、ドキドキ波打つお互いの心音が、聞こえてきそうなくらいに、ボー然となってしまったのが、一瞬なのか、結構長い時間なのか。
 いつの間に観覧車は下まで来ていたらしい。
「ハイ、ありがとうございましたぁー。」
 業務的な係の声にハッとなった二人は、あわてて体を離して、ソサクサと箱から這い出してゆく。
 その後の優斗の顔。
 芽生は、さっきの出来事に、ポーとなっているのに、優斗の顔ときたら、見事に元に戻っていた。
「そろそろ、ここを出ようか。」
 と、まるで何もなかったかのように言うものだから、あっけに取られる程だ。
「・・う・ん。」
 ぼんやり答える芽生の様子に、なぜか満足気な顔をして優斗は肩を抱いてくるのだった。
 二人は遊園地を出た後、電車に乗り込む。
 その間の彼の瞳は、冷静な風でいて、かすかに芽生に対して、優しい気持が表れているように感じるのは、気のせいだろうか。
 そんな瞳で見つめられ、途中何か飲まない?と問われて、断るわけがない。
 彼に促されるままに、一軒のカフェに入ってゆく。
 結構流行っているらしく、たくさんの人でごった返していた。
 先にカフェに入った優斗は、出迎えたウエイトレスに、小さくささやくと、即座に中に入れてもらえた。
 中の人達の注目を浴びるのは、彼といて少し慣れた感じのことで、ホコホコとホッコリとした気持ちのままの芽生は、彼らの後をぼんやりついてゆく。
「待った?」
 ウエイトレスに案内された席に向かって、優斗が言った。
 信じられない人が、席に座っていた。
(雅!)
 なぜ彼女がそこにいる!
 なぜ、優斗は『待った?』なんてコメントを吐く。
 状況が理解できなかった。